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スクリーンを横から見てみる

映画と、映画以外の全て、の2つについて。twitterは@cathexis_impish

『異人たちとの夏』地下鉄の行き着く先に黄泉はない。

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大林宣彦監督の『異人たちとの夏』。

”異人”は幽霊のことですね。幽霊と過ごした人の夏の日々。

 

この映画、のっけから死や幽霊のモヤモヤしたものが醸しだされてます。

冒頭、風間杜夫が見ているテレビドラマ、風間は女が死ぬ瞬間(生と死の狭間)を何度も繰り返し再生します。

彼の住処は人がいなくなりゴースト・マンション化。

シナハンでは、使われていない(ゴースト・ステーション)旧新橋駅を取材。

あちらの世界の雰囲気を漂わせてます。

 

しかし一番注意をひくのが食べ物と飲み物の多さ。食べる食べないに関わらずほとんどのシーンで何かしらが映ってます。生きている風間杜夫と永島敏行が異国料理を手づかみで食べているシーンの異様さに目が離せませんでした。食べ物が生死を隔てるものとして機能しているのでしょうか。

でも異人たちも結構食べたり酒を飲んだりしてるんですよね。

 

ただ、風間杜夫は母の手料理に手をつけません。キュウリに手を触れず、焼きそばはお腹いっぱいと断ります。

「せめて母ちゃんが作ったご飯、一度だけでも食べさせたかったねぇ」と母がもらした一言が胸に刺さります。

と思ったら、手作りアイスクリーム食べてるんですよ。甘すぎないやつ!

風間杜夫は母の手料理を食べない、とキッチリしてほしかった。

 

手作りアイスは浅草演芸ホールで事前に出てきます。舞台上のマジシャンがシルクハットからアイスを3個、しかも同じガラス製の器で。直後に風間は父から話しかけられます。

 

異人たちとの出会いなど、あちらとこちらの境界線に立っていると思われるシーンではアイスクリームのようなキーになる食べ物が出てくるのかと考えたんですが、そうではないんです。そのようなシーンでは食べ物が出てこないんです。どういう時かというと、

 

地下鉄のシナハン。

地下鉄での迷子から抜け出したドアの先は向こうの世界でした。

 

2回目の名取裕子との再会のエレベーター。

名取裕子と最初の出会いでは彼女は死んでません。衣裳が黒いからです。映画のお約束の一つに、死んだ人が現れる時は白い服を着ているというのがあります。2回目以降の名取さんは全て白い衣裳です(裸も多いですが)。

 

父と母の写真を撮ったことを思い出す。

現像した写真に二人は映っていません。

 

名取との最初のベッドシーン。

異人との交わり。

 

永島と管理人が3階の部屋に明かりが灯っているのを見つける。

名取裕子が異人だということがはっきり分かるところ。

 

 

映画のほとんどがこちらの日常とあちらの日常で綴られます。日常には食べ物が存在します。

しかし、こちらの領域とあちらの領域の境界線は非日常の場所だから食べ物が出てこない。

父との邂逅のところだけなんですよね、食べ物が出てくるの。ここもキッチリしてほしかった!

 

先にあげた名取裕子について、死んだのはエレベーターのところからだという考えにはもう一つ根拠があります。

あの世からこの世にシーンが変わる時は必ず画面が白黒になって、画面が奥に小さく消えていくトランジッションを使っています。エレベーターのシーンでこのトランジッションが使われていることから、あれが異人・名取裕子との出会いだったと考えられます。

でもこの理論も1ヶ所崩れてるんですよね。

 

名取裕子に「見て!これが今のアナタの本当の姿よ」と言われてから両親に別れを伝える場面転換でくだんのトランジッションが使われてます。異人と異人との繋がりで。

 

どうも突き詰めていくと、いつもどこか少しだけ破綻してるんだよなぁ、しっかりしてよ大林さん!

 

と思ってたんですが、ちょっと違うかもしれません。

大林監督はワザと破綻させてるんじゃないでしょうか。

 

こちらの領域とあちらの領域には結界があり、結界が接するところが境界線です。

隔たれているふたつの領域は、少しの綻びを伝って交じり合い、その道をたどって異人たちとの邂逅を果たす。

風間杜夫は映画の綻びを使ってふたつの世界を行き来していたのではないでしょうか。

地下鉄は入り口になっても出口として機能してないしね。1回しか登場しないから。

 

 

今日はお彼岸ですね。花がほころぶ季節です。

お墓が遠くてなかなか線香をあげに行けませんが、こちらの世界から異人のみなさまへこの映画を捧げたいと思います。

嗚呼、弟に会いたい。そっちでアイスクリーム、食べてるかい?

 

 

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